世界のうちなーんちゅ物語 | 第2回
沖縄県在住・ヘナ&赤土琉球ハーブ蒸しHarmony. オーナー みゆきさん
「世界のうちなーんちゅ物語」は、世界のどこかで暮らしながら、それぞれの場所で自分らしく人生を歩むうちなーんちゅたちの声を届ける連載です。
海外で暮らす人、沖縄に根を張って生きる人、文化や伝統を受け継ぐ人、新しい挑戦を続ける人。それぞれの場所で紡がれる物語には、その人だけの歩みがあります。
一人ひとりの物語の中にある喜びや揺れ、そして沖縄とのつながりを通して、私たちが本来持っている温かさや可能性を見つめ直すきっかけになればと思います。
第2回は、沖縄の土と植物、空手を教えていたお父さまの存在、そして自分の体を信じる力を通して、今を軽やかに生きるみゆきさんの物語です。
ひと口メモ
「うちなーんちゅ」とは、沖縄の人、または沖縄にルーツを持つ人を指す言葉です。
みゆきさんは今、生まれ育った読谷村に戻り、実家の一室で古民家温活サロンを開いています。
大きな手術を経験し、約2年間、思うように体が動かない時間を過ごしたみゆきさん。薬だけでは整わなかった心と体が、自分の体に備わっている回復へ向かう力を感じることで、少しずつ変わっていったといいます。
「心と体は、自分で守る」
その言葉には、経験した人だけが持つ静かな強さがありました。
読谷村の実家で始まった、古民家温活サロン
海と畑、昔ながらの集落の風景が残る場所として知られる読谷村。みゆきさんは、そんな地で生まれ育ちました。
うるま市や沖縄市など、本島内のいくつかの場所で暮らしたのち、今はふたたび読谷村へ。築44年の実家は、心と体をゆるめる温活の場になっています。
ひと口メモ
読谷村(よみたんそん)は、沖縄本島中部の西海岸にある、日本で最も人口が多い村です。世界遺産の座喜味城跡があり、やちむんや読谷山花織など、歴史と伝統工芸が今も息づいています。


みゆきさんは現在、フィットネスジムのスタッフとしても働きながら、その合間にサロンの活動を続けています。


よもぎ蒸しのコースでは、ストレッチや自重トレーニング、体幹トレーニングなども取り入れ、体を温めることと動かすことの両面からケアを伝えています。




みゆきさんの活動の根っこにあるのは、「楽しく健康になってほしい」という思いです。
「体が動けることは、当たり前ではなくて、尊いことだと思うんです」
そう話すみゆきさんの言葉には、実感があります。
なぜなら、みゆきさん自身が約2年間、思うように体が動かない時間を経験してきたからです。
大きな手術のあと、体の声を聞くようになった
この章には、術後の傷跡の写真が含まれます。苦手な方は、目次から次の章「沖縄の土、植物、空手が教えてくれたこと」へお進みください。
みゆきさんが、自分らしく生きることを強く意識するようになったきっかけは、大きな手術でした。肝臓の胆管に腫瘍が見つかり、開腹手術を受けることになったそうです。
そのとき、命のこと、子どもたちのこと、これからの暮らしのこと。いろいろな思いが重なったといいます。





「死を覚悟した出来事でした。怖さはありました。けれど、子どもたちのためにも“生きなきゃ”という思いのほうが強かったです。」
術後の不調や落ち込みも想定しながら、自分の中で気持ちを立て直していったみゆきさん。
手術のあと、体調が整わない日々が続きました。偏頭痛や背中のこわばり、生理痛の悪化。毎月のように痛みに悩まされ、救急車で運ばれたこともあったといいます。
救急車で搬送されても、病院で受けた処置は、痛み止めの点滴のみ。
みゆきさんの中には「このままいつまで、同じことを繰り返すのだろうか」という不安がつのったといいます。
そんなときに出会ったのが、沖縄産の赤土を使った琉球ハーブ蒸しでした。友人がはじめていたそのケアを受けたとき、みゆきさんは体がふっと緩むような感覚を覚えたそうです。
まだ生理痛が和らぐかどうかも分からない。けれど、体は先に反応していました。
「これ、私やりたい」
気づくと、そんな言葉が口から出ていたといいます。
それが、みゆきさんにとって大きな転機になりました。
その後、自分の体を温め、汗をかき、少しずつ整えていく時間を重ねていきます。薬だけに頼るのではなく、自分の体の回復する力、植物の力、筋肉や細胞の力を信じてみること。
それは、みゆきさん自身が体を通して学んだことでした。
沖縄の土、植物、空手が教えてくれたこと
みゆきさんのサロンで使われている座器は、沖縄の赤土を使って作られたやちむんです。


よもぎ蒸しというと、植物の力で体を温めるイメージがあります。けれど、みゆきさんの話を聞いていると、そこには沖縄の土や火、人の手のぬくもりも重なっているように感じます。
「アナログなんですけど、その良さがあるんです。植物の力とか、地球の恵みとか。」
みゆきさんは、今の時代の便利さを否定しているわけではありません。
ただ、自分の体を通して、昔からあるものの力をもう一度見直すようになったといいます。
よもぎをはじめとする植物の力。
沖縄の赤土。
読谷村の空気。
ひと口メモ
「やちむん」とは、沖縄の言葉で焼き物のこと。みゆきさんのサロンで使われている座器は、沖縄の赤土から作られたものです。植物の力で体を温めながら、沖縄の土にも包まれるような時間。そこには、土地の恵みと人の手仕事がそっと重なっています。
そしてもうひとつ、今のみゆきさんにつながっているものがあります。
それが、子どものころに習っていた空手です。
みゆきさんのお父さまはかつて、家の一階で空手を教えていました。幼いころのみゆきさんも、半ば強制的に空手を習っていたそうです。

そのころは反抗して、やめてしまった空手。
けれど、大きな手術を経験したとき、その精神が自分を支えてくれていたことに気づきました。
「負けるのも自分。耐えるのも自分。自分自身との戦いみたいなものを感じました。」
さらに、お父さまの門下生だった女性がよもぎ蒸しを受けに来てくれたことで、空手の見え方も変わっていきます。その人から、空手の奥深さや、心と体を整えるものであることを教えてもらったそうです。
「私、父からすごいことを習っていたんだと思いました」
植物で体を温めること。
沖縄の土にふれること。
空手を通して、心と体を整えること。
それらは別々のものに見えて、みゆきさんの中で静かにつながっています。
その感覚はやがて、沖縄という土地への思いにも重なっていくのでした。
沖縄への思いを尋ねると、みゆきさんは、「島」で暮らす感覚について話してくれました。
「沖縄は、本土から訪れる人にとって、飛行機に乗って向かう、海に囲まれた島です。けれど、その沖縄に、多くの人が癒やしやリフレッシュを求めて訪れます。ここにいる幸せというか。観光客が多いということは、やっぱり癒やしの島なんだなって感じます。」

沖縄に住んでいると、青い海や空、人の温かさは日常の中にあります。けれど、外から訪れる人の姿を見ることで、あらためてその恵みに気づくこともあります。




心と体を守る強さを、女性たちへ
今のみゆきさんが大切にしていること。それは、心と体の調和です。

サロン名にも込めた「ハーモニー」という言葉。そこには、心と体が少しでもずれると、自分自身を見失いやすくなるという実感が込められています。
闘病中、みゆきさんは体だけでなく、心も大きく揺れたと話してくれました。子育てをしながら、思うように動かない体と向き合う日々。
弱い自分、苦しい自分、もう頑張れない……。早く楽になりたいと思ってしまう自分。
それでも、みゆきさんは自分の体のケアに集中していきました。
温めること。
汗をかくこと。
体を動かすこと。
自分を大切に扱うこと。
その積み重ねの中で、少しずつ自分の軸が戻ってきたそうです。
「自分の体を大切に扱うと、自分がやりたいことは何だろうって見えてくるんです」
みゆきさんは今、心も体も強い女性を増やしていきたいと話します。ここでいう強さは、誰かに勝つための強さではありません。
弱い自分を見せてもいい。
完璧でなくてもいい。
それでも、自分の心と体を整えながら、少しずつ前へ進んでいく。
その感覚を、みゆきさんは沖縄の言葉に重ねて話してくれました。

沖縄の言葉に「なんくるないさー」があります。
みゆきさんにとってそれは、ただ軽く「なんとかなる」と言う言葉ではありません。
やることをやり、自分を整え、前を向いてみる。
その先に、本当にどうにかなっていく流れがある。
なんくるないさーって、ふざけた言葉じゃないんだなって痛感しています。沖縄に来る人には、疲れた心と体を少しリセットして、また楽しむ感覚を取り戻してほしい。よもぎ蒸しを知らない人にも、まずは体験してみるきっかけになれたらうれしい。
そう話すみゆきさんの言葉は、とてもまっすぐです。
みゆきさんの話す「なんくるないさー」には、病気や子育て、体の不調を通ってきた人だからこその、静かな実感がありました。
「忙しい毎日の中では、自分のケアを後回しにしてしまうこともあると思います。でも、心と体だけは、自分で守ってほしいんです。」

生まれ育った読谷村の実家。
かつて、お父さまが空手を教えていた道場。
その一角は今、みゆきさんにとって、心と体をゆるめる場所になりました。
そんな古民家温活サロンから、みゆきさんは今日も、自分の心と体を大切にすることの尊さを、楽しく伝えています。
